議事録 / 検体909の処遇について

「――先日保護した検体909についての報告を」
「検体909。推定年齢十九歳前後。逆行性健忘と見られる記憶障害あり。その他の身体機能については概ね良好。現在週に一回メディカルチェックを行い、経過を観察しながら処理セクションでの単純労働に従事させている。他の作業員に多く見られるような神経衰弱の症状の類は今のところ無し。以上」
「彼の素性について見解を聞こうか、藍博士」
「……市街戦跡地の生存者であり、戦闘服と思しきものを着用していたところを見るに、どこかしらの組織に所属している兵士の可能性が高いだろう」
「アレク、ボクは止めようとしたんだよ?」
「検体の息の根をか?」
「死んでいればどこの誰だって構わないだろ? それが五体満足で生きてるばっかりに、彼がテロリストや産業スパイである可能性を心配しなきゃならない。だから生存者なんて、ここに連れてくるべきじゃあない。みんなもそう思うでしょ?」
「……」
「……」
「……マキネン博士の言い分も一理ある。が、原則として人命は尊ばれるべきものだ。我々が針の筵に座り続けているのも、全ては人類の存続と再生の為なのだから」
「副主任の仰る通りです。とはいえ、憂慮すべき問題であることには変わりありませんね。どのように対応しますか?」
「彼に『記憶を取り戻してもらう』か、あるいは『忘れたままでいてもらう』か……」
「監視を付けるべきだね。そうでなきゃ首輪をつけておくかだ」
「いずれにせよ、検体909の件は藍博士に一任する。君の裁量で対応しろ」
「……良いのか、そんな適当で」
「適材適所だ。君は自分の拾って来たものを、適当に放置したりはしないだろう。その点で信用している」
「……」
「生かすにしろ殺すにしろ任せる。過程も手段も結果も問わない。――ただ、このコロニーの中は平穏で安全でなければならない。各員、そのことを改めて肝に銘じておくように」
「はーい」
「承知しました」
「了解」

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