議事録 / 検体固有識別名の命名について

「ところで、検体909についてですが。彼は名前も憶えてないのですよね? 書面上は構いませんが、本人とのコミュニケーションを取るにあたり、個人の名前はある方が良いかと」
「そうだね。データによれば、検体番号で呼び続けていると、精神衛生上好ましくない影響が出ることも多い。俺もそれには賛成だ」
「どうでも良くない? 名前なんか。すぐに処分することになるかもしれないんだしさ」
「さっきの会議の内容をもう忘れたらしいな。――『人命は尊ばれるべき』。その原則がある以上、検体は可能な限り生かす方針で対応する。処分を前提とした発言には賛同しかねる」
「ボクはキミのために言ってるんだけどなァ、藍博士――わざわざ情が移るようなことはしない方がいい。特にキミみたいな人はさ。ボクは、友人が悲しむ顔を見たくないんだよ」
「ハッ、心にも無いことを。残念だが、俺にも悲しくならない死は存在するぞ、マキネン博士」
「いいや、それでもキミは悲しんでくれるさ。眉間に皺を寄せて、口いっぱいで苦虫を噛み潰したような顔で、ね――」

「…………ふう、やっと行った。相変わらず君たちの会話は重苦しい。聞いてるだけで胃が潰れそうだ」
「副主任がおられたら、追加でお薬を飲まれたでしょうね」
「仕方ないだろう。愚鈍な俺ごときには、天才の考えは理解できん。ところで、名前の件……何か案があるのか? 方城博士、蛇穴博士」
「うーん、そこは藍博士が付けるべきじゃない? 拾ってきたんだし」
「それは行きがかり上、仕方なくだ。命名について俺がすべき理由はない」
「彼と一番接することになるのは、一任されている藍博士でしょうから、それがよろしいかと」
「………………」

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